前述「吸血鬼幻想」では、最初に吸血鬼の主な活躍地として中世のバルカンを挙げている。
これについ
ては、我々もトランシルヴァニアに対してドラキュラの国である印象があるので分かり易い。以前ルーマ
ニアでチャウシェスクの事件があったとき、彼の人生とヴラド=テーペシュとの比較が論じられたりした
事からもその認識が一般的であるのだろう。
古くはハンガリー王で神聖ローマ帝国皇帝ジギスムント
が、1414年の世界公会議において「狼男」の存在をローマ教会に認知させたという。ということは、こ
の時点において皇帝も認める吸血鬼信仰が当地方において盛んに行われていたと考えられる。吸血鬼
が盛んに論じられるようになったのは十八世紀であるが、当時は迷信と言われ半信半疑の状態であっ
たようだ。そこでその証拠として挙げられるのが主に十七世紀のもののようであるが、その信仰が全国に
広まる以前、まだ中央に集束していない時にも地方では個々に吸血鬼を信じていたようである。おそら
く、中世時代に全般に渡って共通の知識だったのではないだろうか。