ドラゴンクエストというゲームがある。
シナリオは当時アドベンチャーゲームをヒットさせていた堀井雄二、グラフィックデザインは鳥山明、音楽はすぎやまこういちという、業界内でも噂となる主力メンバーに加え、当時誰もが認めるトップ少年コミック雑誌であった少年ジャンプでのPR活動も功を奏し、「ドラクエ」は大ヒットした。シリーズは回を重ねる毎に作品のレベルと人気を高めてゆき、三作目でその完成度は最高クラスに達した。関連するTV番組などが次々と作られていく中、 件の「ダイの大冒険」の連載が始まった。
今でも「ドラクエ」ファンの私は、当時もそれをテーマにしたコミックという事で興味はあったのだが絵柄が子供向けの印象を受けたのと他にも「ドラクエ」をテーマにした漫画は数多くあったことから特に注視していた訳では無かった。気になり始めたのはTVでアニメ化されて後である。
「ドラクエ」の魅力として、すぎやまこういち氏の取り入れたクラシック調のBGMというものが有ったせいもあり、「ドラクエ」ものの音楽が流れるTV番組は見るようにしていた。
・・・未熟な勇者ダイが魔王軍の勇士、獣王クロコダインの強襲を受けてピンチに陥っていた頃、仲間のポップはパーティーを離れ悩んでいた。力の強いダイと違って、強力な呪文を持たない魔法使いのポップは、百獣を支配する剛の者クロコダインのパワーの前に自らの死を怖れ、敵の挑戦を受け死地へ乗り込むダイ達を 見殺しにしようとしていたのだ。自分が行った所でなんら状況に変わりはしない、と。 しかし、同じ宿屋に泊まっていたニセの勇者の一行、火事場泥棒をしている彼らを軽蔑の眼で見ていたポップは、逆に一行の魔法使いにより叱咤激励されてしまう。以前のわたしもそうだった、勇気が出なかった私は、若い頃に勇者を憧れてはいたが、現在では今のような地位に甘んじている。勇気のかけらが胸の中に少しでも残っている内になんとかしなくてはいけない。相手によって出したり引っ込めたりするものは勇気ではないという彼の言葉に胸を貫かれたポップは、自分達を魔王軍から守る為散った元勇者である師を思い出し、 ダイが敵の奸計にはまり全滅の危機を迎えた王城の中に、単身乗り込んで行くのであった・・・。
…と、ここからはややネタバレになってしまうが、結局ポップはやはり力では勝てず、呪文も通じず力尽きようとするが、最後の最後で死を覚悟し起死回生の大逆転で勇者ダイの力を回復させる事に成功する。
ここではある程度読んだ事に無い人に対しても判る様にと思って書いたのでストーリーを追ってみたが、私が感動したのは明らかに力の違う巨大なものに立ち向かう少年の姿について。
奇跡、という言葉は嫌いなので、
剛の者にそれに劣る剛の力で対抗し単純に勝ってしまうのでは面白くない。「ダイの大冒険」の面白い所は、むしろ知恵と工夫によって勝利を収める構図にあると思う。これはストーリーを通じて繰り返されるテーマであって、只の力持ちから勇者へと覚醒していくダイと、人間的な弱さを抱えながら同じ人間からの教えによって自らの信念を高めていくポップの二人が互いの長所を生かし、短所を補いながら成長し、二人とも敵の一団から一目置かれる存在になってゆく姿は、決して現実ばなれしたものではなく、我々にも共感できる所が多いと思う。
もう一つの部分について触れたい。この物語はドラクエであって、ドラクエではない。世界観や、呪文名、モンスター及び武器名などに多少の共通はあるものの、それ以外はオリジナル。キャラはゲーム自体とは関連のないものだが、勇者が魔王を倒したという過去を示されて読者は、自分がゲームをプレイした事を思い出しオーバーラップさせ、それが説明されないままでも曖昧には思い起こせる事で物語に厚みを与えている。ゲームの戦闘シーンとしても、#3以降「ドラクエらしさ」に縛られて時代にリンクできないものになりかけたものとは違ってむしろ源流の「D&D」に 通じるものを感じる。 すなわち、前衛の戦士が実際に敵に肉弾戦を仕掛け、後衛の魔術師系がサポートする際、声をかけて戦士を避けさせ、範囲に対して強力な魔法をかけるのだ。最近のRPGではヴィジュアル的に表現されつつあるが、それこそ初期のRPG「ウィザードリィ」や「ドラクエ」で想像し、僕が後期ドラクエに望んで得られていないものなんだ。 故に、ドラクエであってドラクエではないといえると思う。 そしてまさにそここそが新鮮な感動を呼び起こす所でもあるんだ。
少年漫画の主人公らしいダイは純粋に理想の勇者に憧れて強さを求めるのだけど、やがて人間界の範囲を超えたとき、「強さ」自体に疑問を投げかけられる事になる。勿論彼は真に純粋な性格なので、そんな壁に対しても常に真摯な態度でぶつかって行く。
また「ダイの大冒険」では、本来のテーマとは別にさりげなくRPGの疑問なんかもちりばめられている。地上にいるどんな敵ももはや相手にならないくらい強くなってそののちはどうなるのか。色んな魔法はどのように発動して敵にダメージを与えているのか。など。
それと、「ドラクエ」を知っている者ならではの楽しみもある。死んだ時のメッセージ、「あなたはしにました」とか、魔王の元からはルーラで逃げられないとか、#1では雷だったベギラマが#3では炎になっているので、「ダイの大冒険」ではギラ系の呪文は「閃熱呪文」と当て字してあっていわばレーザーのような形態になっているのも興味深い。
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